あせった様子のセキがめずらしく、声をかけると、ハッとしたようにその足が止まった。

「いきなり、すまない」
「ううん、それはいいんだけど……」

言外に説明を求めれば、セキは自分を落ち着かせるかのように、深く息をついてから語りだした。

「母が霊力の高い方だというのは話したと思うが……。
その、三年前に父を亡くしてからは、もともと病がちだったところにもってきて、精神(こころ)も患ってしまってな。

霊力の制御もできなくなり、力のある(あやかし)なども()び寄せる体質になってしまったんだ。
それを防ぐため、彼女はこの“大神社”内で療養を兼ねて暮らしている。

ここは強力な“結界”が幾重にも張りめぐらされているし、清浄な気の流れもあるから都合がいいんだ」

手を引かれ歩きながら、その事情を聞き、瞳子はうなずいてみせた。

「そっか。安全だと解ってても、心配、なんだね?」
「……ああ。そうだな」

ふう、と、ふたたび息をつきながら、セキが片手で顔を覆った。

「なんだか、格好悪いな。いい歳して、こんな」
「どうして? それだけ大切なお母様なんでしょ、アンタにとって」

首を傾げてセキの顔をのぞき込む。
すると、片手を下ろしたセキが、ふっと笑って瞳子を見た。