セキが話す一言一句が“花嫁”であるから瞳子を望むというのではなく、瞳子個人を望んでくれているのだというのが解るから。

(でも、私には、覚悟がない)

何もかも捨てて、セキの胸に飛び込むだけの勇気がなかった。好きだからという理由だけで、この世界に留まれる自信がなかった。

瞳子は、セキにつかまれた右手を振りほどく。

「……気持ちは、嬉しいけど」

それは、本心だ。
口にするには苦く、声を出すには震えるほどの葛藤が、心に巣食う。

「私は……元の世界に帰らなきゃいけないの」

紛うことなき本音なはずなのに、嘘をつくような罪悪感に(さいな)まれた。
瞳子はセキから視線をそらし、自らを抱きしめるように腕を組む。

「分かった」

穏やかに返されるセキの了承に、優しい断絶を感じ、胸が痛む。
それすら、瞳子の身勝手な想いに過ぎず、ますます自分の心が空回っていくのを感じた。

「もとより、それが瞳子との約束だったからな。
……時間をとらせたな。では、行こう」

心なしか、セキの声が沈んでいるように聞こえ、瞳子は口にしても詮無いことと解りつつ言った。