はらはらと、目の前で黄色に彩られたイチョウが、舞い落ちた。
冷たい風が、頬をさすように吹き抜けていく。

「……なに?」

声は、自分でも驚くほどに素っ気なかった。セキの苦笑いが応じる。

「これは、俺の勝手な願いなんだが」

するりとほどけた指先。
セキが、つないでいた手を放し、瞳子よりも半歩前に出る。

思わず仰向けば、まっすぐな眼差しが注がれた。

「瞳子に、この先もずっと、俺の側にいて欲しい」

胸に響く、よく通るセキの声。

頭上の(こずえ)を揺らして飛び立つ、鳥の羽音が遠く聞こえるほどに、瞳子は動揺した。
告げられた言葉の意味をはかりかねて、呆然とセキを見上げる。

「……アンタ、何言ってんの……?」

予想通りの答えを聞いたかのように、セキがひとつ、うなずく。

「そうだな。瞳子を元の世界に帰らせてやると約束した俺が言うべきでないことは、百も承知だ。
けれど」

言って、セキは瞳子の右手をつかみ、自らがつけた“花嫁”の“(あかし)”に、唇を押し当てた。

「欲が出た。瞳子が、俺のために泣いてくれたから。放したくないと、思った」

切実に響く声音と共に触れた吐息が、頑なな瞳子の心をくすぐる。

(嬉しくないわけ、ない)