深い溜息が聞こえ、セキは失笑をもらした。

「こちらは気にせず、存分に猪子殿に可愛いがってもらえ。それと、明日のことだがな」

『あっ、セキ様。あのお……っ、瞳子サマのご様子は、いかがですか?』

まさか、半日やそこら顔を合わせないくらいでイチが瞳子を気にかけるとは思えず、嫌な予感がして強く聞き返す。

「───彼女が、どうかしたのか?」

思わずにらみつけた先の黒い烏が、(くちばし)を鳴らしてみせた。

『ああ…………ご心配なく。
本人がどうこうというより、あの方が貴方に迷惑をかけているのではと思っただけです。……第一、そんなか弱い女性(にょしょう)ではないでしょう、あの方』

ふん、と、鼻を鳴らす従者に、セキは安堵の息をつく。
と、同時に、彼女に対して認識の開きがあることに気づき、声をあげた。

「イチ。瞳子はお前が思うほど、強くはないからな。
繊細で傷つきやすい心をもってるんだから、今後不用意な発言は控えてくれ」

『……え? ああ、すみませんね、いま丁度、猪子さまに話かけられて……で? 善哉(ぜんざい)がなんです? 小豆(あずき)を土産に持って帰れと?』