『はい。思ったより時を要する事態になりましてね。よろしいですか?』
「ああ」

もともと眠りの浅いセキは、すぐさま(しとね)から身を起こすと、膝立ちのまま障子を開け来訪者を招き入れた。

月明かりのなか現れたのは、闇に溶け込むような濡れ羽色をした(からす)
しかし、その瞳は赤く、己の口うるさい従者本来の眼の色と、同じもの。

「……何か問題が?」

『いえ……まぁ、貴方の“花嫁”についての報告はそれほどでも。前例がないのは承知のうえでしたしね。
ただ、ひとまず【あちら側】としては黙認の方向でいたいそうです。
どうしても私……セキ様の手に負えないようであれば、助力も()む無しとのことですが』

現世(うつしよ)のことに口をだせば、いらぬ火の粉が飛んでくる。
“神獣ノ里”の(おさ)としては関わりをもちたくないのは当然だ。

それでも助けると言ってくれるのは、イチとの関係性で成り立つものだろう。

「分かった。必要とあらばオレから助力を請うとしよう。
で? なんで時間がかかってるんだ? ひょっとして猪子(いのこ)殿か?」

『ええ、まぁ、主にあの方につかまってます。
なので、このモノの姿を借りて報告する羽目になったのですがね。……はぁーっ……』