何を、と、思わず応じて振り向けば、そこに、虎次郎と実緒の姿があった。

「“神獣”サマだからと、私になさった数々の所業を、いまさら無かったことにできるとでも? 忘れられぬ思い出が、今もここに、あります」

得意げに言いおいて、虎次郎が自らの胸もとを押さえる。その言葉に秘められた想いが、セキの心を揺さぶった。

「虎次郎……」

感極まって見返せば、どこかそんなセキの様子を面白がるような笑みで虎次郎が言った。

「年端もゆかぬ私を、肥溜(こえだ)めに落とし、木から吊るし、滝つぼに突き落としたこと……もうお忘れか?」

「いや……うん、お前が可愛いくて、つい、な」
(まさか、昔の悪戯(いたずら)を蒸しかえされるとは……)

「あ、けど、最後のは実緒が主体になってやったヤツじゃなかったか?」

「は? コタが面白がってやったことで、わたくしはコジの為を思ってやりましたが?」

「……お前もやってんじゃねーか、結局」

瞬間、横にいた瞳子が盛大に噴きだしたので、驚いて彼女を見下ろした。

「ごめん! なんか、おかしくって……三人、本当は仲が良かったのね」

こらえきれずにといった様子で笑い、自分を見上げてくる瞳子の顔に呆けていると、すかさず実緒から茶々が入った。