神代(かみよ)の昔から、神の気まぐれで「手を付けられる」ことは、よくあることだからな)

それが、いちいち“禁忌”となっていては、(あま)の神々の仕事が増えて大変だろう、と、セキは心のうちで皮肉った。

「であるならば、皆にも、なんの(とが)めもなく、二人がこの家を継ぐことを了承してもらいたい。
本来 嫡男長子であった尊仁と、身も心も清らかな実緒の婚姻を祝福し、支えてやって欲しい。
これは“神獣”としての頼みではなく、今日までこの家の者としてあった『虎太郎』の願いだ」

セキはぐるりと一同を見渡してから、両手をつき、頭を下げた。
そして、その姿勢のまま、声を張る。

「のみならず、皆には今日まで大変世話になった。至らない俺を、支え、励まし、叱ってくれたこと、感謝する」

───これが、セキが人として関わった者たちへの、別れの挨拶(あいさつ)であった。



「兄上」

瞳子と共に広間を後にするセキに、声がかかる。
立ち止まり、けれども振り返ることをためらう背中に、もう一度、声がかかる。

「兄上。……よろしいですか」

「……俺はもう、お前の『兄』ではないだろう」

「血の繋がりだけが『兄弟』をつなぐものではないのではありませぬか。それは、兄上も、ご存じのはず」