「“神獣”であることを隠し『人』として皆と関わったこと、それ自体に後悔はない。
また、この決定において、先々代の当主・尊臣とヘビ神との“誓約”があり、俺に選択の余地がなかったことも、付け加える。
だが」

しん、と静まり返った広間でセキのよく通る声が響き渡る。

「実緒との婚儀、彼女との夫婦の契りは、固辞すべきであったといまは思う。
“神獣”でありながら、『人』として妻を(めと)ったことは、俺の浅慮であった。実緒と……尊仁には申し訳なく、思う」

居並ぶ二人に向け、セキは目礼をやった。
実緒はじっとまっすぐにこちらを見、尊仁───虎次郎は、無表情のまま口をつぐんでいる。

「そして、実緒の名誉のため、尊仁の杞憂(きゆう)を晴らすために言えば、俺と実緒は男女の仲ではない。
これは、俺が“神獣”であることに起因する。
すなわち“花嫁”以外の者との情交は、“神獣”においては“禁忌”とされている。
これに抵触すれば、俺より上位の神───あまつ神の怒りに触れ、俺は魂ごと滅せられるからだ」

これが、瞳子にも事前に話しておいた『偽り』の部分だ。
もっともらしい理由が必要だろうと、セキが実緒と虎次郎のためにこしらえた偽の“禁忌”だった。