「皆も知ってはいるだろうが、もう一度、俺の口から話す。彼女は、隣国“上総ノ国”の赤い“花嫁”、名を月島(つきしま) 瞳子(とうこ)という。
───俺の、“花嫁”だ」

そのまま広間に集う者らを振り返り告げれば、困惑と共に怒り似た疑問が投げかけられる。

「いったい……何を(おお)せか!」

「過ちを正す、この場を設けられたのは、そのようにお考えであったのでは?」

「そうだ」

うなずき、虎太郎は一同を見回した。

「俺が萩原虎太郎尊征として、この家で『人』であったこと、それが間違いなのだ。
俺の出自は“神獣ノ里”、俺は赤い狼の“神獣”として生まれたのだ」

息をつき、皆を見据え、低く言い放つ。

「人ではない。神の、獣だ」

ひゅっ……と、のどを鳴らす音がした。畏怖(いふ)に尻込みする者の反応であった。

それが、虎太郎───いや、赤い“神獣”こと赤狼(せきろう)が告げた事実を聞いたことによるものか、それとも、神の威を肌で感じたことによるものかは、定かではない。

ただ、赤狼───セキが己の中にある『人』との決別を声音に込めたことだけは、紛れもない事実だ。