「そうだ。そんなこと……並の者の神経では()えられないだろう」

セキは吐き捨てるようにそう言ったが、瞳子は首を振ってみせた。

「私……狼の赤ちゃん、産みたいかも!」
「……は? 瞳子、何言って……」
「え? 狼の赤ちゃん、産めるものなら産みたいけど」

そこまで言って、瞳子はあわてて全力否定する。

「ち、違うわよ? アンタの子供産みたいって言ってるわけじゃなくて!」

「解ってる。俺とどうこうじゃなく、純粋に狼の仔を産んでもいいと思ってるんだな」

「そ、そうよ! 純粋に、他意なく、狼の赤ちゃんなら、欲しいわ」

「……瞳子は、変わっているな」

あわてふためく瞳子をよそに、セキはそんな彼女を見て、愛おしそうに微笑む。

「勘違いしないでよ? ホントに、アンタの子供産みたいとは言ってないから!」

「そうだな、瞳子は獣が好きなだけなんだろう」

自分の発言を曲解されたくないと必死になる瞳子の前で、広げた和紙や(すずり)などを片づけ始めるセキは、落ち着いたものだ。

ひとりで言い募る瞳子が、道化に思えるくらいに。

「……惜しいな、俺が“神獣”に戻れていたら、瞳子からもう少し、慕ってもらえていたのかもな」

少しさびしそうに告げる横顔に、瞳子の胸が痛む。