「実緒が、獣の仔を生むことになるのがだ。それは、俺が『人』であることの、否定だからな」

(……え?)

瞳子は、自分の耳を疑った。

深刻な面持ちで話すセキには悪いが、一瞬、何を言われているのか、理解に苦しんだ。

「あの……ゴメン! いま、急に私のなかで話が飛んだ。
ちょっと待って……獣の仔って、何? どういうこと?」

「……俺が“神獣”だということは、解っているか?」

「そりゃあもちろん、何度も聞いたわ」

「……この姿が“化身(けしん)”と呼ばれるもので、俺が人のカタチを模して、この現世にいるのだということもか?」

「確か、“花嫁”を得るため、だったわよね?」

「……ああ」

気づけば、セキが自分をうろんな目つきで見ている。心外だ、と、瞳子はムッと眉を寄せた。

「アンタが赤い“神獣”───赤狼(せきろう)って呼ばれる存在で、だから私はセキって、呼んでるのよね?
で、“化身”を解くと狼になって……アンタの子供を身籠るとして、生まれてくるのは───」

「人ではない。狼という獣だ」

「狼の……赤ちゃん?」

順序立てて話を積み上げれば、感覚的に()に落ちなかったものが、ようやく腑に落ちる。

ただ、それでも。