本来なら彼女がいるべき場所に、自分が何も知らずに土足で上がりこんだようで……瞳子は、実緒に顔向けできない気分になる。

特に、セキに対しての淡い恋心を自覚してしまったいまは、複雑な想いが絡み合う。

「対外的には、俺が“上総ノ国”の“神獣”になると決まったから、ということになるな」

(やっぱり。別れたくて別れたわけじゃないんだ。当然よね、あんな若くて可愛い子)

そう納得しつつも、瞳子はひざ上で拳をにぎる。思考と感情があべこべで、どうしていいのか分からない。

「だが実質的に、すでに俺たちは夫婦として破綻していた。
そもそも俺が実緒と夫婦になったのは、俺が萩原家の嫡男で長子として育てられたからだ。恋しい間柄ではなく、家同士の結びつきのためだからな」

「……政略結婚ってこと?」

「平たくいうとそうだが……虎次郎が実緒を好いているのを知っていたし、俺は実緒を『女』としては見ていなかったから、形だけ取繕えればいいかとも考えたのは事実だ」

淡々と話すセキの温度のない語り口に、瞳子は自らの心が冷えていくのを感じた。