「アンタは人として、この萩原の家で育って……頑張ってきたんでしょ?
今日の村の人達の態度を見れば、アンタがそうやって人のために力を尽くしてきたことくらい、想像できるわ。

それなのに……今度は“神獣”としての役目を果たせだなんて……そんなの、あんまりじゃない……! 勝手すぎるわよっ……!」

「瞳……子?」

気づけば、目の前で瞳子が泣いていて。虎太郎は、その綺麗な涙と、流される涙の意味に、困惑した。

「アンタも……もうちょっと……理不尽だって、怒りなさいよ……!
なんで、そんなに淡々と……話、してんのよ、ばかっ……」

ああ、と、虎太郎はうめいた。

瞳子は、自分の……虎太郎としての人生を思い、悔し泣きしているのだ。
志半ばで理不尽にも己の道を閉ざされ、違う道を行けと言われる不条理に、憤って。

「……もう、いい」

「は……?」

「瞳子が、俺の代わりに泣いてくれたから、もう、いいんだ。
俺は『萩原虎太郎尊征』としての人生は奪われたが、代わりに、赤い“神獣”として、瞳子という“花嫁”を得た。
だから、もう、いい」