「“国獣”の代替わりは、その“役割”を終えるか───もしくは、その“国獣”が居なくなることによって行われる。
今回の“上総ノ国”の場合、後者だそうだ。だからこそ、俺の名が上がったのだろう」

「……どういうこと?」

難しそうに顔をしかめる瞳子が可愛い。
虎太郎は、一瞬そのことに意識をもっていかれたが、瞳子のじれた視線により、話に戻った。

「“上総ノ国”へは、もともと俺が“国獣”として入る予定となっていたが、俺は人として現世(うつしよ)にいる。
だから、俺の弟───紛らわしいが、虎次郎のことではなく、“神獣”としての弟だな、ソイツが“国獣”として遣わされたんだが……居なくなった。

“役割”にはもうひとつ、重要なことがある。それは、次代の“神獣”を残すことだ。

己の“花嫁”と共に過ごした暁に授かるとされるが……弟は、それを待たずに消えたというからな。
俺にお鉢がまわってきたのも、致し方ない」

「───……そんなの、アンタのせいじゃ、ないじゃない」

「え?」

不服そうに唇をとがらせた瞳子を、驚いて見返す。