瞳子でさえ、勘違いしてセキを疑って複雑な気分を味わったのだ。
正式な妻という立場なら、もっと嫌な思いを味わっているに違いない。

「いや、話していない。……そもそも実緒は、俺が“神獣”であることすら、知らない」

「奥さん、なのに……?」

「妻だからだ。実緒は、俺が人であることが前提での『妻』なんだ。
話せる訳がなかった。それは、俺……萩原虎太郎尊征という存在の、否定だからだ」

障子戸を閉め、セキが瞳子を振り返る。その焦げ茶色の瞳が悲しげに瞬く。

「俺が“神獣”であることは、母も、知らない」

「え……」

「俺は、母が“神獣の里”から連れ去った、ヒトのカタチをした、(ケモノ)だ」

口にするのもはばかれるように、セキは小さな声で、そう告げた。