“神獣”のまま、常世(とこよ)──神々の世界に留まるモノもいるからな、その区別ともいえる。
が、“神獣”と言われれば、ほぼ自国の“国獣”を指すことが多い。

そして、“国獣”にはそれぞれが司どる“役割”がある」

セキの持つ筆が和紙の上をすべるように動く。
瞳子は、よく通るその声を耳にしながら、和紙に書かれていく文字を目で追った。

「白い“国獣”は、『再生と治癒』。
赤い“国獣”は、『生と懐胎』。
黒い“国獣”は、『死と破壊』を、その国の民のため、行うことだ」

「えぇっと。アンタは、赤い“神獣”……“国獣”になるワケだから───」

「『生と懐胎』を司どる。
これは、人間(ひと)側からの言い方だから、正確には
『生きとし生けるすべての動植物に、生きる力と新たな生命を授ける』
ということらしい。……すべて、イチの受け売りだがな」

そう言って、セキは自らの直垂(ひたたれ)(たもと)から何やら取り出した。
懐紙に包まれたそれを開くと、なかから小さな粒が現れた───玄米のように、見える。

セキはそこから一粒、手のひらにのせた。

不思議に思う瞳子の前で、セキの手のうちから灯火のような赤い光が浮かんだ。
その中央にあった玄米が発芽し、みるみるうちに苗へと成長していく。