言いかけて、思わず口をつぐむ。
驚いたように瞳子を見ていたセキが、口もとを覆って横を向いたからだ。

「……ちょっと。なに笑ってんの?」
「悪い……! 瞳子は、本当に、可愛いなと思って」
「は? アンタふざけるのも」
「そうだな、この場合、礼を言うべきだろう。
ありがとう、瞳子」

その屈託のない笑顔に、瞳子は、言ってやろうとしていたことの半分も言えないであろう自分に気づく。

(ずるい男だわ)

もっとあせって、言い訳がましく取りつくろうような男なら良かったのにと思う。

(そうしたら……嫌いになれたのに)
「失礼いたします」

胸のうちに浮かんだ複雑な想いが、そのひと声で霧散した。実緒が茶を運んできたのだ。

一瞬、身構えた瞳子だが、抹茶の入った碗と懐紙に載せた和菓子を置くと、実緒はそのまま立ち去ってしまった。

セキが人払いをと頼んだことに、かしこまりましたとだけ返して。

「さて。先ほども言ったが、少し話が長くなる。茶菓子でも食いながら、適当に楽にしていてくれ。
何か解らないことや疑問があれば、その都度聞いてもらって構わない」

「分かったわ、ありがとう。
……いただきます」