《四》

通りすがりの侍女をつかまえて、セキと話しがしたいのだと頼めば、すぐさま当人の部屋まで案内された───が。

書院造りの構造上、部屋の障子越しに、何やら女のすすり泣く声が聞こえてきて、瞳子としては、きまりが悪いことこの上ない。

(ちょっとコレ……お取り込み中ってヤツじゃないの?)

瞳子のそんな思いとは裏腹に、主人(あるじ)の部屋の様子など気にも止めない素振りで、侍女が用件を告げた。

と同時に、すすり泣きは止み、なかからセキの短い了承が返される。声によどみはなく、毅然(きぜん)としたものだった。

失礼いたします、と。
つ、つっ……と、侍女が障子をおもむろに開けると、セキと、彼に向き合い正座する若い女の姿があった。

「お邪魔だったら、私、出直すけど?」

「まぁ姫様、そんな、お気になさらずに。どうぞごゆっくり、旦那様とお語らいくださりませ。
ただいま、お茶をお持ちいたしますわね」

薄紅色の着物をまとった、瞳子とは十歳くらいは離れているだろう娘が、瞳子の申し出をやんわりといなす。
この娘が、セキの元妻だという実緒で間違いないだろう。

言葉の端々に自分こそがセキの伴侶なのだという主張が感じられ、仮とはいえ彼の“花嫁”を名乗り、恋仲であることを望まれていた瞳子は、自らの態度を決め兼ねた。