だから、と、虎太郎は、ついに泣きじゃくり始めた実緒の目を見て言った。

「今晩、皆を集めてきちんと話す。オレがどうして、こうなかったかを。
だから、頼む。もう少しだけこらえてくれ」

瞬間、実緒は糸が切れた操り人形のように、虎太郎のひざ上に顔を突っ伏した。

虎太郎は、嗚咽(おえつ)をこらえきれぬ彼女の細い肩をなだめるようにして、叩く。
つぐないにすらならなくとも、せめて泣き止むまでは側にいてやりたいと思った。





「尊征様。『赤の姫君』からの仰せで、こちらにお連れいたしましたが、お通ししてもよろしいでしょうか?」
「……ああ、構わない。通せ」

廊下からかかった侍女の声に、残った涙を拭いとりながら上半身を起こした実緒を見届け、虎太郎は応じる。

ややして開いた障子の向こう、ひざまずく侍女の後ろに瞳子の姿があった。
室内の湿った空気を感じてか、瞳子の顔が気まずそうにくもる。

「お邪魔だったら、私、出直すけど?」
「───まぁ姫様、そんな、お気になさらずに。どうぞごゆっくり、旦那様とお語らいくださりませ。
ただいま、お茶をお持ちいたしますわね」