急に癇癪(かんしゃく)を起こされ、虎太郎はぎょっとして実緒を見返した。
眉をつり上げ、涙目となり、紅潮した頬を震わせ虎太郎をにらんでいる。

「コタもコジも、二人してわたくしを馬鹿にして! なんなのよ、もうっ……、いらない荷物を押しつけ合うみたいにして!」

「だからオレは前から言ってるだろ? お前は虎次郎と似合いだって」

「は? 夫婦の契りは形だけ、お前は虎次郎と上手くやれ、自分は領地の女とよろしくやるから放っといてくれ、ですって?
それでわたくしが周りから、どんな目で見られているか、一度でも考えてくれたことはありますかっ……!?」

「あー……、それは、本当にすまない。事実を話すより、オレがろくでなしだって思われたほうが、お前と虎次郎にとっていいと思ってだな」

「うるさいっ……! このっ、ど阿呆馬鹿オトコッ! 死んでから出直して来いっ……!」

半べそをかきながら、虎太郎の胸を両拳で叩きつける実緒は、幼い頃からよく知る利かん気な娘の姿だった。

「だよな、うん。オレが悪かった……。
いろいろ説明が面倒で、自分勝手に決めつけて、お前たちを振り回した」