「お久しゅうございます、尊征……いえ、旦那様」
「……何度も言わせないでくれ。オレ達はもう夫婦(めおと)じゃない」
「いいえ。貴方様はまだ、わたくしに納得がいく説明をくれておりませんわ。ご説明を」

きっぱりとした物言いは、虎太郎の知る彼女の印象からは、少し外れていて。
自分がこの地を離れている間に、並々ならぬ決意をさせてしまったことに気づかされた。

自分が瞳子と向き合う前に、この者───実緒を避けては通れぬことを、虎太郎は改めて実感した。



「どうぞ」
「ああ、いただく」

差し出された(わん)の茶を飲み、息をつく。その手首の細さに目を止め、見ぬ間に痩せたかつての妻に良心が痛んだ。

「まだ虎次郎と、祝言を挙げていないのか?」

思わず口をついて出た言葉。能面が張りついたような笑みを浮かべていた実緒の顔が、引きつった。

「……それが、わたくしを離縁した理由ですか。わたくしが虎次……尊仁さんと、通じているとお思いになられたからと?」
「いや、オレは」
「───もうっ、言い訳はたくさんっ!」