《三》

出奔時のままの状態になっていた自室に入り、着替え終えた虎太郎は肩を落とした。

(瞳子に弁明させてもらえなかったな)

虎次郎が、あの場に現れるとは予想外だった。
もともと領地に対する関心よりも、官吏としてどう中央政治に関わるかしか考えてないところがあったから、余計に。

(まぁ、(まつりごと)に関わるのなら尚のこと、己の領地を知らなきゃ意味はねぇしな)

作物の生育具合や収穫量、小作人の出入り、害虫や害獣の駆除、野盗対策などなど。
気を配らねばならぬことは山積みだからだ。

(そう考えると、オレがこの家を出たことも多少なりとも役立ったってコトか)

自分が居なくなることによって、望む望まざると、領地に赴く羽目になったに違いない。

(瞳子は、奥の間にある客室だろうな)

そう思って障子に手をかけた瞬間、
「尊征様、よろしいですか?」
という、若い女の声がかかった。
ああ、と、虎太郎は応じ、来訪者を招き入れた。

やわらかな眼差しと、物腰。見上げてくる黒目がちの瞳を少し潤ませて、微笑む女。