(きっと何か、事情はあるんだと思う……思いたい)

ふいに瞳子のなかで「すみません、瞳子さん」と告げる男の声がよみがえる。
瞳子がかつて付き合った男だ。二股をかけて、その相手に子供ができたと言い、別れた男───。

(ああ、もう、イヤ!)

瞳子はぎゅっと目をつぶり、思いきり頭を振った。また、同じような目に合うのかと思うと、堪えられなかった。

(でも、あの時とは事情が違う)

そう、瞳子はセキの期間限定の“花嫁”で、恋仲の振りをするだけという間柄だ。
仮に瞳子の推測が当たったとして、瞳子にセキを責める資格などないのだ。

(ただ私の気持ちがモヤモヤしてるだけ)

そうは結論づけても、今後セキとどう接したらいいのかが、分からない。

(それに───)

よく解らないことがある。
この世界で“神獣”とは、どういうものなのか。
これは、根本的な問題だった。

(普通に考えたら、セキの弟ってことはあの虎次郎って人も“神獣”になるんじゃないの?)

そして、自分という“花嫁”は、彼にとって本当に必要なのだろうか?

(花嫁って、私の感覚だと奥さんになった人を、結婚式の場で指す言葉なんたけど)