瞳子でさえも感じたことだが、萩原の(やしき)の者達の態度が、セキに対してあからさまに悪かった。
軽んじている、といったほうが正しいか。

セキが瞳子を紹介する前に、虎次郎から、

「こちらは隣国“上総ノ国”の赤い“花嫁”様だ。失礼の無きよう、皆でおもてなしせよ」

と、出迎えた下男や侍女に通達されていた。

何度か、セキが瞳子と話をしたい素振りをうかがわせたが。
瞳子自身、気づかぬ振りをしたり虎次郎に阻まれたりと、この邸に着くまでの間、ついぞその機会はなかった。

(ちょっと情報の整理をさせて欲しいのよ)

決してセキを無視した訳ではないのだ、と、瞳子はほんのわずかに生まれた後ろめたさをそんな言葉でごまかした。

(だって……まず、離縁って、何)

最初、村を治めているだろう初老の男に対しての言葉は、あまりなじみのない単語からやや流しぎみに聞いていた。

だが、虎次郎に対して放った宣言のような言葉のなかでの二度目の「離縁」は、聞き捨てならなかった。

(そりゃあね、見た目の歳からして結婚してたって、まぁおかしくないでしょうよ)

瞳子より五歳くらいは年下に見えるから、おそらく二十五六か。さらに、結婚していれば、子供がいてもおかしくない。