幸い、虎次郎のなかで瞳子は、赤い“神獣”の“花嫁”という立場であり、丁重に扱うべき存在(もの)として、接してくれていたのも良かった。

それもこれも、瞳子の着衣に虎次郎が気づいたおかげだろう。

(着る物が身分証代わりって、本当なんだ)

朝食を摂ったのち、自室に戻った瞳子に“花子”である桔梗(ききょう)が差し出したのは、昨晩 瞳子が望んだ着物だった。

緋色の小袖の(たもと)と、黒い筒袴(つつばかま)のすそには、銀色の糸で紡がれた蔦葛(つたかずら)の模様───“神紋(じんもん)”があった。

「瞳子さま。こちらのお召し物はあなたさまが“花嫁”様であることの証となるものでございます。

下々のなかには(まれ)に通じぬ者も居りますが、萩原の者となれば、先代からの教えもあり、不埒(ふらち)な真似をする者もいないはず。

どうぞ、御守り代わりといってはなんですが、付き添い叶わぬわたくしと思い、お召しになって行かれませ」

と言われ、有り難く着させてもらったが、それが功を奏したようだ。

(なんか、兄弟仲もあんまりよく無さそうに見えたし。それに……)