《ニ》

客人として通されたのは、庭に面した八畳ほどの部屋だった。
雪見障子からは、いまは赤く色付き始めたモミジが見える。

(とこ)の間に活けられた菊は一輪だが、質素に見えて品の良さを感じさせた。
時の経過は体感と太陽の位置でしか分からないが、おそらくいまは昼過ぎくらいだろう。

(私はここでどうしたらいいのよ……)

娯楽のない一室。
瞳子に生け花の心得でもあれば、床の間にある花器や活け方も楽しめるのだろうが、あいにくそんな高尚な趣味はなかった。

(それにしても……)

と、瞳子はいまのいままで考えずに済ませていたことを、思いだしてしまった。

(セキって一体、なんなのよ)

セキの弟だという虎次郎が現れ、彼の導きであれよあれよという間に、気づけば萩原家の敷居をまたいでいた。

道中、瞳子は虎次郎の操る馬に、セキは虎次郎が連れていた従者の馬を借りる形となって。

(いつもなら、絶対断ってた)

会って間もない男が駆る馬に相乗りするなど。

けれども、直前のセキ───『萩原虎太郎尊征』という人物に対する過剰な情報が、彼に近寄ることを避けさせた。