「これは……! 失礼いたしました。『赤の姫君』とは露知らず、とんだご無礼を。
しかしながら、当国の御方(おんかた)様とは違うご様子。一体どちらの───」
「瞳子は俺の“花嫁”だ。
……言っている意味は、解るな?」

一転しての、うやうやしい態度で虎次郎が瞳子に近づくのを見て、たまらずその前に立ちはだかった。
瞬間、虎次郎の顔がみにくくゆがむ。

「兄上。戯言(ざれごと)も大概に」
「俺がお前に萩原の後を託し、実緒を離縁し、萩原家を出た理由───それが、すべての答えだ」

皆まで言わせずに、虎太郎は、あの日 告げられずにいた言葉を、ようやく口にだしたのだった。