(参ったな。いまの「俺」は前とは違うんだけどな)

イチが側にいたら、
彼方此方(あちらこちら)で良い顔をしてきたツケでしょう」
と、文句を言いつつも女達を蹴散らしているに違いない。

「すまないな。もうお前達の期待には応えられない」

言って、瞳子のほうに目を向ければ、何やら不穏な空気を醸しだしていることに気づく。
村娘たちに阻まれ、表情はよく見えないが───。

(多分、いや、絶対誤解してる)

これは早々に瞳子への弁明を急がねば、と。虎太郎があせったその時、聞き慣れた若い男の声がした。

「兄上、ようやくお戻りですか」
「……虎次郎(こじろう)……」

振り返った視線の先。馬上から、こちらを見る直垂(ひたたれ)姿の青年は、まぎれもなく萩原虎次郎尊仁(たかひと)、その人であった。

「相変わらず───囲まれてますね」

涼しげな目元をすがめ、虎太郎の周りの村娘を見る。否や、潮が引くように女達がそそくさと立ち去った。

「で、そちらの女性は……」

唯一、虎太郎の側に残った瞳子を胡散(うさん)臭そうに映した目が、見ひらかれる。
弾かれたように、馬から降りた。