「いえいえっ、滅相もございませぬっ! 尊征様には、村の者みな感謝こそすれ、悪意をもつなどもってのほかでございます!」
「ならばよし。収穫も、無事に済んだようだしな」

稲の刈り跡を見れば、例年通りの豊作に終わったことがうかがえる。今年の()も期待できるだろう。

「何か困っていることがあれば───」
と、口癖のような問いかけをしかけて、ぐっと息をのむ。

(何を、言うつもりだ)

萩原家とは関係のない人間だと自ら言っておいて。それは、無責任な干渉でしかない。

「いや。もう俺の出る幕ではないな。邪魔をした。
───瞳子、待たせたな。行こう」

村長の物問いたげな眼差しから逃れ、身の置き所を持て余しているだろう瞳子を振り返った。

「いいの? 何か言いかけてたけど……」
「ああ。俺にできることは」

「もう行ってしまうのぉ、若さまぁ……」
「えぇ〜! アタシもキヨと同じように、若サマにお願いしたかったのに〜!」
「しばらく振りなのに、若様ったら、なんかつれないわね」

いつの間にやら集まった村娘らが、瞳子との間に垣根のようにして群がった。