心配そうな色を宿した瞳が、自分を見つめている。
直後。瞳子の視界が、ぐるりと回転した。

(なに、これ……?)
「興奮すると効き目が早いそうです」
(は? 何言って……)

強烈な眠気をともなう眩暈(めまい)に、思考もふわふわとし、まとまらなくなる。

くずれ落ちるように力が抜けた瞳子の身体を、男が抱きしめる。

「あなたは、変わらないですね。
僕は……こんなに、変わってしまったのに」

男のつぶやきは瞳子の耳に注がれはしたが、彼女の意識はすでになかった。


       *


次に瞳子の意識が戻った時、格子戸の向こうには煌々(こうこう)と明るい満月が見えた。

「……っ」

言葉をつむぎかけたが、声が出ない。

それどころか全身が鉛のように重く、目に見えない、何か巨大な物に押しつぶされているような気がした。

(なに……? 身体、動かない……。私いま、どうなっているの……?)

まぶたが、重くなる。先ほど感じた強烈な眠気だ。

生理現象とは違う睡眠への無理やりな導入に逆らって、瞳子は必死に目をこらす。
と、そこへ、瞳子の身を覆う影がかかった。
蒼白い小さな手ぬぐいほどの布が、ぱさりと落ちてくる。

(なんなの、いったい……!)