抱えきれない想いを独りごちたが、瞳子には聞き取れなかったらしく、虎太郎は気を取り直す。自らののどを示し、言った。

「それ、サ……桔梗(ききょう)が?」
「そうなの。セキの“花嫁”として行動するなら、白い“(あと)”は隠しておいたほうがいいって」
「ああ、確かに、気づく者がいると厄介かもな」

瞳子ののどもとを覆う、組紐。赤・黒・銀の三色で編まれたそれは、一見、首の装飾品として周りの者の目には映るだろう。

(さすが、早穂(さほ)は気が利くな)

白い“痕”を隠す目的はもちろんだが、この三色を使った物が、赤い“神獣”とその“花嫁”にしかまとえぬ“禁色(きんじき)”であることすら利用しているのだ。

見る者が見れば、瞳子がこの“陽ノ元”において『特別な存在』なのだと、目に見える形で示すことにもなる。

「でもこれ、チョーカーみたいで、可愛い」
「蝶……蚊? みたいか?」

微笑みながら瞳子が発した言葉に首を傾げつつも、可愛いのは瞳子本人だろうと思っていると。

「若さまーっ!」
と、遠くのほうから若い女の声がした。

見れば、収穫の終わった田んぼのなかで、大きく手を振る者と、作業の手を止めてこちらを見る農民の姿があった。