「無理そうか?」
「いえっ……。セイいっパイ、ガンバらせてイタだきマスねっ」
「……なんでカタコト……いや」

ふう、と、セキが息をつく。常よりかたい口調で続けた。

「少し、寄り道する」

というセキの言葉の直後、『水の龍』がぐんぐんと急降下した。そして、緑の葉が生い茂る竹藪(たけやぶ)へと、突っ込むようにして地に着いた。

「瞳子」

すとん、と、自分だけ地面に降り立ったセキが瞳子を見上げる。

「俺は、お前の嫌がることを無理強いする気はない」

焦げ茶色の眼が、じっと瞳子を見据えた。

「それは、最初に誓ったはずだ。
俺の為すすべては、お前の意志によるものとする、と」

森閑としたその空気のなか、セキのよく通る声が響き渡る。

「だから、嫌なら嫌で構わない。お前の正直な気持ちを聞かせてくれ」
「私……」

元の世界に戻るための交換条件。
瞳子はそう理解して、朝食の席でのセキとイチの申し出を了承した。

(だけど……)

思い返せばセキは、瞳子が【何もしなくても】瞳子を元の世界へと帰してくれようとしていたのではなかったか。

(そうだ。条件をつけたのは、私のほう)