当然ながら、乗用車も自転車も、そして荷馬車も見当たらない。
それは、否が応でも、瞳子に“陽ノ元”という異世界に自分がいるのだということを、再認識させるものだった。

(まぁ、そもそも、こんな半透明な龍にのって、空飛んじゃってるしね……)

空中を舞うように進む龍の尾は、瞳子達を乗せたとたん倍に延びて、たなびく推進力となったようだ。
速度は自転車よりも早く、一般道を走る乗用車の法定速度よりは劣る、といったところか。

「基本的には、俺に話を合わせてくれれば、それでいい。瞳子に何か、無理難題をこなしてもらうとかはないから、安心してくれ」

ただ……、と、そこでセキが言いよどむ。

「その、不本意かとは思うが……俺と、恋仲ということに、して欲しい」
「こ、こいなかッ……⁉」

反射的に、ビクッとセキから手を離す。
幸い、反動で龍の背から落ちるようなことはなかったが、瞳子の胸中は急にせわしなくなった。

(濃い、仲。じゃなくて、恋仲……つまり、恋人ってことか。ん? って、その前に私、セキの“花嫁”で……え? “花嫁”ってよく考えたら何すんの? えっ? よく考えなくても恋仲よりもさらに進んだ関係で───)