ちらり、と。
朝日を浴びてキラキラ光り、宙に浮いた氷の彫像のようなソレを見やった。

水墨画で見るような、東洋の竜だ。しかし、生命体とはとても思えず、正直、安定感がまったくない。
───大きさで言えば競走馬くらいだが、まさか。

「えっと……これに、乗ったり……する?」
「ああ。ここから“下総ノ国”の萩原家までは、瞳子の足だと四五日はかかるだろうからな。イチが気を利かせてコイツを置いていってくれたんだろう」
(やっぱり……!)

予想通りの答えに、思わず言った。

「あの。馬じゃ、ダメなの?」
「ダメではないが……、よほどの駿馬(しゅんめ)でなければ時間の短縮にならないし、頭数も必要だ。それに、俺はともかく、瞳子の身体への負担が大きいと思うぞ」
「そっか……そうよね」

仮に乗れたとしても遠出には向かないことは、乗馬経験のない瞳子でも解る。

「……無理そうか?」

瞳子のためらいに、嫌でも気づいたであろうセキの確認に、あわてて首を振った。

「多分、大丈夫……だと、思う。それに、私の事情のせいでもあるし」