「気安く触らないでくれる?」

訳の分からない状況と、得体の知れない男の存在に、瞳子はいらだちも露わにする。

青みがかった灰色の瞳が、こちらをはっと見返し、伏せられた。

「……すみません」

男の素直な謝罪に、瞳子はバツが悪くなり、思わず内心で悪態をつく。

(どいつもこいつも……男なんて、ろくでもない奴ばっかり!)

我ながら偉そうな態度をしていると思いはしても、瞳子のなかで『男』という存在そのものが、もはや軽蔑の対象となっていた。

そんな男ばかりではないと思わせてくれる者は、残念ながら瞳子の周りには皆無だった。

女遊びと賭け事が好きだった父親。
職を転々とし借金ばかりつくっていた叔父(おじ)
二股をかけたあげく、別れてくれと言った元彼氏。
妻と子がいるのに、職場で部下を手込めにしようとした上司。

(最悪最悪最悪最悪最悪……)

瞳子は呪文のように「最悪」を繰り返し、脳内にある男らの存在を抹消しようとした。

「……大丈夫ですか」
「何が、だいじょ、う、ぶ……よ?」

言いかけた文句が、不自然に途切れてしまう───ろれつが、回らない。