立ち去る宮田先輩を見送ったあと、蒼井先輩がわたしの方に向き直る。

「あいつとはさ、小学校んときから一緒なんだけど、昔からああなんだよな。頼りになる姉ちゃんっていうより、母ちゃん、みたいな?」


 たしかに、宮田先輩は、サッカー部にとって、お母さんみたいな存在だ。

 日々一人一人のコンディションを把握し、声を掛けている宮田先輩のことを、わたしは尊敬している。

 だからこそ、あの『部員ノート』を作ったんだ。少しでも宮田先輩に近付けるようにって。


「だからさ、一年の頃なんかは、マネの先輩に『でしゃばるな』なんて心無いことを言われることもあったみたいだけどさ。それでもあいつは、あいつのやり方でずっとうちのチームを支え続けてくれてる」


 そっか。蒼井先輩は、宮田先輩のことを信頼しているんだ。

 わたしも、いつか蒼井先輩にそう思ってもらえるような存在になりたかったな。

 もう……その願いは、一生叶わないけど。 


 そういえば、なんでわたしを引き留めてまで、こんな話をするんだろ。


「あっ、悠斗先輩!」

「悠斗先輩、こんにちはーっ」

「こんなところで、何してるんですかぁ?」


 パタパタと小走りでやってきた二年のマネの先輩たちが、蒼井先輩を取り囲む。

 一番来てほしくなかった人たちに、蒼井先輩といるところを見られてしまった。

 まあ、わたしは先輩たちの輪からはじき出され、いない存在として扱われているみたいだけど。


「うん? 三崎と一緒に、先生の悪口大会」

「うっそだぁ。だって三崎さんって、絶対に先生の悪口とか言わなさそうだもん」

「わかるー! 『いい子』って感じ」

「間違いない」