なんだか今日の蒼井先輩は、捉えどころがないというか、何を考えているのかわからない。

 でも、ひょっとしたらフィールド上の蒼井先輩も、本当はそうなのかもしれない。

 あの笑顔の中に、いろいろな感情を隠しているだけで。


「おー。宮田、お疲れ」

 蒼井先輩が片手を軽く挙げ、わたしの背後に視線を向ける。

 振り向くと、同じサッカー部の女子マネで、三年生の宮田愛子先輩がこちらに向かって歩いてきていた。

「お疲れ様です、宮田先輩」

 宮田先輩に向かってぺこりと頭を下げる。

「……蒼井、なにこんなところで一年生口説いてるのよ」

 宮田先輩が、眉間にシワを寄せて蒼井先輩を見る。

「ちょい待て。さすがにそんなことしてねえし」

「す、すみません。わたし……失礼します」

 慌てて宮田先輩にもう一度頭を下げ、この場を素早く離れようとすると、「三崎」と、再び蒼井先輩に呼び止められる。

「どこ行くつもり? 俺の話、まだ終わってないんだけど」

 そんなわたしと蒼井先輩を、宮田先輩が交互に見比べ、小さくため息を吐く。

「蒼井、ちゃんと後輩の立場も考えてあげなさいよ」

「はいはい。わかってるってー」

 軽い調子でヒラヒラと手を振る蒼井先輩に何か言いかけて、宮田先輩が一旦口をつぐむ。

「……それじゃあ三崎さん。先輩の言うことは、よく聞きなさいね」

「? はい。わかりました」

 いつもちゃんとメモを取りながら聞くようにはしていたけれど。

 そういう意味では、ない? いったいどういう意味だろう?