蒼井先輩の声に、ピタリと足を止める。

「なに無言で逃げようとしてんだよ」

「いえ、別にそういうわけでは……」

 わたしが蒼井先輩の方に向き直ると、蒼井先輩はもう一度視線をグラウンドへと向ける。

「俺ってさ、太陽の申し子みたいなとこあるだろ? だから、太陽が出てないと、なんとなく元気が出ないんだよね。顔の濡れたパンのヒーローみたいにさ」

 渡り廊下の手すりに頬杖をついて、独り言のように蒼井先輩がつぶやく。


 ふざけているのか、真面目なのか、よくわからない。


「そんで、三崎は? なんでそんな顔してんの?」

 蒼井先輩がわたしの方を向き、じっと見つめてくる。

 なんだか心の中まで覗かれてしまいそうで、わたしはすっと目をそらした。

「わたしは、いつも通りですよ」

 そんなわたしのすぐそばまですたすたと歩いてくると、蒼井先輩がわたしの顔を覗き込んでくる。

「そう? はじめて駅で会ったときみたいに、泣きそうな顔してる」


 ドキッと心臓が跳ねる。

 まさか蒼井先輩が、あのときのことを覚えていてくれたなんて。


「そ、そんなことありません」

 必死に平静を装って言い返す。

「ふぅん」