「確認してきてくれるってさ」

 多少気まずそうな顔をしながらも、蒼井先輩はわたしに笑顔を向けてくれた。

「ありがとうございます」

「とりあえず、もう一度カバンの中、探しとく?」

 こくりと小さくうなずくと、ベンチにカバンを下ろし、中を漁る。


 さっき散々探したんだから、見つからないと思うんだ、け、ど……。


 さーっと血の気が引いていく。


「ご、ごめんなさい! ありました」


 そうだ。今日体育のときに、財布に挟んで鍵付きのロッカーに入れたんだっけ。

 カバンの中からパスケースを出して、蒼井先輩に見せる。


「はぁ~。よかったな、見つかって」

 蒼井先輩が、心からホッとした表情を浮かべる。

「すみませんでした。ご迷惑をお掛けして」

 わたしは、蒼井先輩に向かって慌てて頭を下げた。

「大丈夫、大丈夫。新しい生活に慣れるまでって、気ぃ張って、いろいろと大変だもんな」


 蒼井先輩は、最後までイヤな顔ひとつせず、駅長室に見つかった旨を知らせに行くと、帰っていった。

 蒼井先輩の背中を見送ったあと、わたしも無事見つかった定期を使って帰路についた。