「そうだ。とりあえず落とし物として届いていないか、駅員さんに聞いてみよう」

 そう言うと、改札のところに立つ駅員さんの元へと歩きはじめる先輩。

「え、ちょっと、待っ……」

 慌てて先輩の背中を追いかける。


 なんでこんな見ず知らずの一年生のために動いてくれるんだろう。

 うれしさよりも、疑問が最初に湧いた。


「大丈夫。きっと見つかるって」

 わたしの方を振り向いた先輩が、わたしを安心させようとするかのように、ニコッと笑う。

「そうだ。君、名前は?」

「……」


 サラッとした黒髪に、整った目鼻立ち。

 先輩、見るからにモテそうだし、とりあえず女の子の名前は聞くようにしてる……とか?

 わたしみたいな地味子でも、聞かないのは失礼かもとか思っていたりして。


 わたしが口ごもっていると、
「あ、ごめん、ごめん。ヘンな意味じゃなくてさ。ほら、定期って名前書いてあるだろ?」
 と、先輩が慌てて付け足す。

「ご、ごめんなさい。そうですよね。えと……三崎(みさき)葵衣(あおい)、です」

「三崎……葵衣ちゃん? ははっ。偶然。俺も『アオイ』っていうの。あ、苗字の方ね。蒼井悠斗。え、これ、俺らが結婚したら『蒼井葵衣』になるってこと? ……って、なに言ってんだ、俺。ごめん、ごめん。仮の話だから。ヘンな意味じゃないからな。ホントごめん」

 しどろもどろに言い訳すると、蒼井先輩は駅員さんの元へと走っていった。

 二言三言交わしたあと、駅員さんが駅長室へと入っていく。