蒼井先輩との出会いは、ほんの偶然だった。
あれは、入学してまだ間もない四月のはじめの頃のこと——。
え、ウソ。なんで?
カバンの中をいくら引っ掻き回しても、ポケットをいくらひっくり返してみても、定期券がどうしても見つからない。
どこかで落としてしまったの?
目の端に、じわっと涙が滲む。
定期券もだけど、それ以上にとても大切なパスケースだったのに。
中学で一番仲のよかった美桜と別の高校に進学することになってしまって、すごく心細かったわたしに、美桜がプレゼントしてくれたの。
「あたしも同じパスケースを使うから。いつでも一緒だよ」って。
美桜は、葵色のパスケース。
わたしは、桜色のパスケース。
このパスケースを見るたびに、元気をもらってた。
わたしの宝物だったのに……。
「君、どうしたの?」
顔をうつむかせたわたしの上に、低くて落ち着いた声が降ってくる。
ハッとして顔を上げると、見知らぬ背の高い男子が目の前に立っていた。
「い、いえ……」
胸元の校章の色から、同じ高校の三年生ということだけはわかった。
「顔色悪いみたいだけど。気分でも悪い?」
「いえ……定期が見つからなくて」
「マジでか。カバンの中とか、ポケットの中……はもう探したよな」
こくりと小さくうなずく。
あれは、入学してまだ間もない四月のはじめの頃のこと——。
え、ウソ。なんで?
カバンの中をいくら引っ掻き回しても、ポケットをいくらひっくり返してみても、定期券がどうしても見つからない。
どこかで落としてしまったの?
目の端に、じわっと涙が滲む。
定期券もだけど、それ以上にとても大切なパスケースだったのに。
中学で一番仲のよかった美桜と別の高校に進学することになってしまって、すごく心細かったわたしに、美桜がプレゼントしてくれたの。
「あたしも同じパスケースを使うから。いつでも一緒だよ」って。
美桜は、葵色のパスケース。
わたしは、桜色のパスケース。
このパスケースを見るたびに、元気をもらってた。
わたしの宝物だったのに……。
「君、どうしたの?」
顔をうつむかせたわたしの上に、低くて落ち着いた声が降ってくる。
ハッとして顔を上げると、見知らぬ背の高い男子が目の前に立っていた。
「い、いえ……」
胸元の校章の色から、同じ高校の三年生ということだけはわかった。
「顔色悪いみたいだけど。気分でも悪い?」
「いえ……定期が見つからなくて」
「マジでか。カバンの中とか、ポケットの中……はもう探したよな」
こくりと小さくうなずく。