宮田先輩も、蒼井先輩も、もうすぐ引退してしまう。

 けど、わたしは先輩たちのいたこのサッカー部を、先輩たちが大切にしてきたこのサッカー部を守っていきたい。


 あれっ。わたし、サッカー部辞めるんじゃなかったっけ?

 おかしいな。

 けど、先輩たちが大切にしてきたものを、わたしも守っていきたいって思いはじめてる。


「なあんだ、ちゃんと言い返せるじゃん」

 先輩たちの背中を見送っていると、突然背後で声がして、ビクッと肩が跳ねる。

「まだ話終わってないって言ったのに、勝手にいなくなるなよな。っていうか、もう話す必要はなさそうだけど」

 そう言って、蒼井先輩が片方の口角を上げる。

「三崎は、いつだってそのくらい自信持っていいんだよ」

「……ありがとうございます」

 思わずわたしも口元がほころんでしまう。

 こんなところをマネの先輩たちに見られたら、また何倍にも罵られそうだけど。

「よしっ。やっと太陽出てきたみたいだし、俺も元気出てきたぞ」

 蒼井先輩の声に、窓の外を見る。


 相変わらずの土砂降りの雨。

 太陽なんか出ていないのに。


 だけど雨音が、さっきまでと違って、なんだか楽しそうなリズムを刻んでいるように聞こえてくる。


「そうだ、三崎。サッカー部辞めるなんて、俺が許さないからな」

「い、いえ、辞めるつもりなんて……」


 ひょっとして蒼井先輩、それに気付いて……。


「宮田のあとを継げるのは、三崎しかいないって思ってるから。これからも、サッカー部のこと、よろしく頼むな」

「はいっ」


 他の人に、どう思われたっていい。

 わたしは、蒼井先輩に、あのときの恩返しがしたかっただけなんだから。

 わたしは、わたしのしたいことをするだけだ。



(了)