「よかった、思い出してくれたんだね。本当に忘れられてたら僕泣いちゃうところだった」



おどけているのか本気なのか。
どちらともつかないトーンに私は理由もなくゾクリとして足が後退する。


だが目ざとく気づかれ、逃がさないとでもいうふうに長い腕で抱きしめられてしまう。



「どこいくの。やっと会えたのに。
また離れるなんて許さないよ」



言っている意味がわからなかった。
羽生先輩の胸に鼻がうずまって、嗅ぎ慣れた石けんのにおいだけが頭を支配する。