「おいしい」 ぽろりとこぼれた言葉を 私はきっと忘れない。 なぜかそう思った。 出汁の余韻に浸っている時、ふいに視線を感じて隣を見れば、羽生先輩がやわらかく笑っていた。 嬉しそうでいて、どこか切なそうな。 見たこともないような笑顔。 すると、その大きな瞳から一滴の涙が伝った。