「わぁ、なにかあるね。行ってみようか」
羽生先輩はほんの、ほんの少しだけ足を早めた。
だけど傷が痛む私を強引に歩かせるような、そんなことはけっしてしない。
四方を囲む山たちとオレンジ色の空はどこまでもゆったり景色を変えた。
「屋台…のようですね」
時間をかけて辿り着いたそれは、のぼり旗に「蕎麦」と仰々しく書かれた、文字通り蕎麦屋台だった。
昔ながらといえばいいのか。
丸い椅子が三つ置かれており、紺色の暖簾の中からは香ばしい匂いと湯気が流れてくる。
山と空しかないこの殺風景な場所に佇む屋台の存在に、なんともいえない奇妙な気持ちが湧いた。
あの世とは、存外へんなところだ。