透馬との会話は頭に響くとばかり顔を顰め吐息を漏らす永遠。雨の日は自分と同じような頭痛に苦しんでいるのだと思うと、透馬は何とも言えない優越感に浸った。きっと誰も知らないことだ。誰も知らなくていいことだ。自分だけが知っていることだ。永遠の端正な顔面を見つめながら、透馬はわくわくとした胸の高鳴りを覚えてしまった。

 透馬自らが作っていた壁が消え去ったことで、隠されていた永遠の魅力が全面に押し出され、あっという間に惹き込まれていくのを実感する。好きになりそう、好きになるといった根拠のない予感や自信は、近いうちに真実となる。外を濡らす雨のせいで体調は万全の状態ではないものの、透馬はそう確信していた。

 受け取った頭痛薬の封を開け、中身を取り出した透馬は、包装シートのプラスチックの部分を親指で押し、アルミを突き破って顔を出した錠剤を手のひらの上に落とした。早速飲もうとしたところで、肝心の水を用意していなかったことに気づき、自然と動きが止まる。手元に水や茶などの薬を流し込める飲み物がない。弁当用に持ってきていた水筒の中身は既に飲み干してしまっている。無理やり飲み込むか、噛み砕いて飲み込むか、暫しの間思考を巡らせるも、結局は水を求めて手洗い場に行くしかないという結論に至り、透馬は席を立とうとした。

「人の飲みかけ気にしないなら、この水使って」

 この場を一時的に離れようとした自分を咄嗟に呼び止めるような永遠の声を耳にした透馬は、その意図を考えて、思わず顔が緩んでしまいそうになるのを必死に堪えた。まだ自分といたい、話したいと思っているからこその無意識の発言なのではないかと、自分の都合の良いように思考をぐるぐると回転させてしまう。また勘違いしてしまうのは避けたい。告白の予告をしたにも拘わらず、顔色の変わっていない永遠が、いきなり透馬を意識するようになるはずもないのだ。自分に対する印象は良さそうだが、口説き落とすには手強い相手かもしれないと、透馬は早速本気になり始めていた。