視界に広がる多数の情報をひとまず排除しようと、透馬は瞼を閉じる。それで頭痛が治まるわけではないが、雑多な光景を目にしているよりかは闇を見ている方が気は紛れた。

 どこかでこっそり薬を飲みに行ったのかもしれない永遠が教室に戻ってくるのを、約束などしてもいないのにひたすら待っていると、傍らで人の気配と、上から注がれているような視線を感じ、透馬は閉じていた瞼を僅かに開け、目を眇めた。永遠が立っていた。席を奪い占領している透馬を見下ろし、怪訝な表情を浮かべている。

「何してんの」

「何してんだろうな。とりあえず、そこ座れよ」

 声に気怠さの混じっている永遠を、そこ、と空いた自分の席を指差して座るよう促した。まだ透馬の意図が読めていないらしい永遠が、頭痛を引き起こす原因が増したみたいに額を押さえる。続けて、痛みを飛ばすような深い溜息。透馬も酷い頭痛の時にしてしまうことがある動作だった。やはり、間違いなく、永遠は透馬と同じ頭痛に悩まされている。雨が原因か。だとしたら仲間だ。透馬は人知れず親近感が湧いた。

 文句を言うのも面倒で、そもそもそんな気分にもならないのか、何も言わず素直に隣の空席に腰を下ろした永遠を見つめる透馬は、手にしていたペットボトルを机の上に置く永遠の些細な動作もじっと目で追った。ラベルよりも少し下側で、微かに水面が揺れている。その様子を暫し眺めてから深く息を吸い、居住まいを正した透馬は、口数の少ない永遠に目を向け徐に唇を開いた。

「さっきは、怪しいクスリとか言って疑ったり、目つきのことを意地悪く言ったりして、悪かった」

「……それを言うためだけに俺の席を奪った?」

「奪ったっていうか……、うん、まあ……、そう、そうだな。どうしても謝りたくて」