変に邪推せずに、大人しくその厚意を受け取っていれば、永遠との間に亀裂が入るようなこともなかっただろうし、薬を飲むことでこの頭痛も少しは楽になったのかもしれないと思うと、千載一遇のチャンスを自ら逃してしまったということになる。一匹狼で情報の少ない謎めいた永遠とも仲良くなるきっかけにもなったかもしれない。恐らく、同じ頭痛持ちとして、誰よりも永遠に共感することができたはずなのだ。

 考えれば考えるほど、永遠を疑い、売られてもいなかった喧嘩を買おうとした透馬の方が、圧倒的に頭が足りていなかったことが浮き彫りになっていく。自分は一体何を買っていたのかと、透馬は依然として頭痛に悩まされながら、途方もない虚無を感じてしまった。

 友人の背に凭れたまま、憎き雨を睨むように見つめ続けていると、もぞもぞと身を捩る友人に、いつまで凭れかかってんだ、と透馬は軽く頭を叩かれた。頭痛持ちであることを友人には隠しているため、透馬の頭を痛くない程度に叩くことに友人が抵抗を感じている様子はなかった。重くはない軽い衝撃ではあったが、ズキズキとした痛みが増した。

 適当に謝罪して椅子に座り直し、左隣の空席を見た透馬は、考えるよりも先に腰を持ち上げ、気づけば永遠の席を陣取っていた。再びの奇行。つい魔が差してしまったと言わざるを得ない。しかし透馬は、自席に戻るつもりはなかった。ちょうど永遠の席は窓際だ。椅子に横に座り、壁に背中を、閉めている窓に頭をつけると、透馬は脱力するようにそこに寄り掛かった。

 ここで永遠が、すぐ隣の席に座っている自分の体調を気にしてくれていたのかもしれないと思うと、透馬は何とも言えない面映い気持ちになった。それと同時に、先程の愚行を有耶無耶にはできないとも思う。透馬は永遠が戻ってくるのを、永遠の席に堂々と座って静かに待つことにした。