「それ、実は怪しいクスリとかじゃないだろうな」

「いやこれ、普通の頭痛薬」

「喧嘩売ってんのか。やんのか」

「何でそうなるんだよ」

「よくガン飛ばしてきたくせに」

「そんな覚えはない」

「今だって目つき相当悪いからな」

「……心配した俺が馬鹿だった」

 透馬との会話を早々に諦めたようにぽつりと口にした永遠が、差し出していた頭痛薬を静かに引っ込めた。そして、深い溜息を一つ。僅かに歪む顔が、何かに堪えているようなそれだった。片手が額を押さえている。眉間に皺が寄っている。その仕草や表情を見て、あ、と思った。もしかして、と思った。もし本当にそうならば、自分はかなり嫌な奴として映ったに違いない。心配してくれた永遠の厚意を、自分の勘違いと先入観で無下にしてしまったのだから、声をかけた永遠が、声をかけたことを後悔するのも頷ける。透馬が永遠の立場だったら、きっと苛ついていたはずだ。選択を誤った。透馬もまた、溜息を吐いてしまった。

 冷静になると、頭の奥の方がドクドクと脈打っているのを感じた。舌を打ちそうになるくらい頭痛が酷くなっている。先程反射で大袈裟なリアクションをとってしまったせいかもしれない。喧嘩を売られていると勝手に判断して、良質な薬を悪質な薬と猜疑の目を向けた自分の馬鹿さ加減にほとほと呆れる。永遠のことを知らないからといって、あの態度は流石に失礼すぎた。

 自分の非を認めて素直に謝罪しようと思い、口を開きかけたところで、永遠が静かに席を外してしまう。透馬に渡そうとしてくれていた頭痛薬を制服のポケットにしまい、片手に小さいサイズのペットポトルの水を持って教室を出て行く。タイミングを逃した透馬は、立ち去る永遠を呼び止められなかった。