「これは俺が捨てておくから。キャップちょうだい」

 手のひらを永遠の方へ向ける。緩慢な動作で透馬と目を合わせ、それから、ずっと握ったままだったキャップを見て、そしてまた、透馬の顔を見た永遠が、これくらいなら任せてもいいかとばかりに一言お礼を口にして、それを透馬の手のひらの上に乗せた。指というより、整えられた爪の先が、微かに触れたような気がした。ペットボトルよりも、頭痛薬よりも、キャップの方が、体積だったり面積だったりが圧倒的に小さいのだ。直接的な接触があっても何もおかしくはないが、透馬は初めて永遠に、一ミリでも一瞬でも皮膚でもない爪でも触れられたことに、嬉々とした高揚を感じた。永遠の何気ない言動が透馬の何かをぐさりと突き刺し、あっという間に好意に近い感情を抱くと、これくらいの些細なことで一喜一憂してしまうのだった。

 ペットボトルの蓋を閉めた透馬は、意味もなくラベルを触りながら窓の外を振り返った。弱まってもいなければ、これといって強まってもいない雨が降り続けている。永遠と普通に喋ってはいるが、頭痛はずっとしていた。梅雨の時期は頭が痛いことがほとんどのため、変に耐性がついてしまったのかもしれないと、透馬はそう踏んでいる。永遠もそうなのではないか。永遠のテンションが低めなのは、恐らく元々だ。頭痛が原因ではないだろう。声から何から気怠そうなのが永遠なのだ。永遠には人の気を惹く魅力が詰まりすぎている。惚れたことによって生じる欲目かもしれないが。